「紫竹ガーデン(帯広市)」は、年間10万人以上のお客様が訪れ、“訪れる人を幸せに包むお花畑”と評判の観光庭園。
1万8000坪(東京ドーム1個分以上)の広大な庭に咲く花々の向こうには日髙山脈を望み、美しい北海道の風景が広がります。
無農薬はもちろん、無肥料、無散水で植物を育てる紫竹ガーデンで、クロモジ植栽に取り組む様子をご紹介します。
紫竹ガーデン専務 隈本和葉さんにお話を伺いました。
オーガニック庭園に見る自然からのプレゼント
紫竹ガーデンは、隈本さんのお母様である紫竹昭葉さんがご主人を亡くした後、「残りの生涯、帯広の野原をよみがえらせ、野の花が自由に咲く花園をつくりたい」と夢見て、荒野だった農地を北海道の自然らしさを生かした「原生花園」として生まれ変わらせた庭園です。
当時63歳だった昭葉さんは、‘21年5月に94歳で他界するまで休むことなく、花々のお世話とガーデンのお客様の案内を続け、国内外から人気を博してきました。
紫竹ガーデンの特徴は、無農薬はもちろん、ここ十数年は無肥料、無散水で植物を育てていること。
そのため、北海道の厳しい寒さはもちろん、春、夏、秋にも、その環境に適した植物たちが庭の景色をつくります。

「毎年、季節に違う光景を見られるのも自然からのプレゼント。
このガーデンの中でクロモジがクロモジらしく育つことを祈っています」と和葉さん。
北海道では流通しないクロモジとの出会い
紫竹ガーデンが新たにクロモジ植栽を試みることになったのは、昭葉さんの知人でハーブ専門家のご紹介から。
「北海道では流通していないクロモジの木は、母も私も見たこともなく、お茶の席で和菓子をいただく爪楊枝のイメージしかありませんでした。
クロモジティーをいただいた時にハーブのような香りのよさに驚き、すっかり魅了されてしまいました」と和葉さん。
好奇心旺盛だった昭葉さんは、その香りのよさからガーデンのハーブエリアにクロモジの苗を一緒に植え、その成長を楽しみにしていたそうです。

北国では難しい繊細なクロモジの植栽
春にクロモジの苗を鉢と地面にそれぞれ植えましたが、なかなかスムーズにはいかず……。
「すくすく成長しているとはいえず、もう少し暖かくなってから植えた方がよかったのかもしれません。
クロモジを育ててみると繊細な植物であることが分かりました」。

取材時に拝見すると、少し葉が焼けているように見えました。
クロモジは太陽が当たり過ぎても当たらな過ぎてもよくないとお伝えすると、
「このガーデン内にあるドロノキやギンドロ(北海道に見られる落葉高木ヤナギ科)が自生するエリアは、
うっそうとしつつ日差しも入るので、その辺りなら元気に育つかもしれないですね」と仰って、早速、鉢植えのクロモジを移動されました。

ハーブガーデンにて

マイナス25℃のクロモジの冬越しはいかに!?
大きな課題は冬越し。十勝平野も暖冬傾向にあるとはいえ-25℃を下回ることもあり、積雪は1m程、土も地下1mは凍ります。
急激に冷え込む時には、木に含まれる水分が膨張してパーンと音を立てて木を割くほどの凍てつく世界。
春を迎える頃もすんなりと暖かくならず、地面が溶けてきた隙間に春風がピューッと吹くとエネルギーを奪われてしまう植物も。
アジサイなどは“根伏せ”といって、根付いたまま土の中に寝かせて冬を越させるそうです。

青森にクロモジが自生していることをお伝えすると、「青森も冬の寒さは厳しいでしょうから、この土地に合った育て方を探してみます。繊細な根の部分を慎重に扱い、移動はせず、半分は外で囲いをし、半分は室内で様子を見ながらこの冬を越そうと思います」と仰っていました。
クロモジは“幸せを運ぶ”植物
和葉さんは、クロモジは幸せを運ぶ魅力あふれる植物だと言います。
北海道のハッカ同様、クロモジは昔から香りがよいと日本で親しまれてきた植物。
ハーブティーにすれば、美味しくお客様に親しまれること請け合いです。
「北海道でまだ誰も試したことのない新しい地場のハーブティーをクロモジでつくり、ガーデンでお客様に振る舞えたら幸せですね。
しかも昔から使われてきた生薬(生薬名:烏樟[ウショウ])の原料で、クロモジ精油、クロモジ茶、機能性のことなど、話題性も満点。
リラックス作用、抗菌作用、抗炎症作用のある有用植物とのことですから、 心身共にクリーンになれそうです。クロモジと出会ったことで、ガーデンに新たな期待が生まれています」と、笑顔で夢を語る和葉さんでした。


クロモジの魅力を伝えたいとの熱意を大変嬉しく感じました。
北国でのクロモジ植栽は挑戦ですが、クロモジの新天地、北海道での広がりに期待しています。
Topic 安全で健康な土づくり
~次世代の子どもたちに花束を~
「原生花園をつくる」という紫竹和葉さんの思いを実現するには、北海道の自然と共生することが大事だと思ったと言う隈本さん。
試行錯誤の中、
気づいたのは土づくりの大切さでした。
「何年もかけて化学肥料や農薬は使わず、堆肥は十勝の素材をこの土地の微生物に分解させてできたものを使用して庭をつくってきました。
ここ十数年は有機肥料も水もやらなくても、健やかに思い思いに植物が育っています。
草取りも最小限。土が見えるほどに草を抜いてしまうと保水力が落ちるので、植物が元気に育つサポート程度に、スタッフの皆と一緒に楽しみながら手入れをしています。安全な土なので植物の手入れで土を触ることにもスタッフは癒されています」。

健康な土は保水力、栄養面、エネルギーにも満ちている
土は健康になると、保水力、栄養面に優れてきます。
すると、暑い年は暑さに強い植物が、雨が降らなければ乾燥に強い植物が、涼しければ涼しさを好む植物をより元気にし、毎年違う庭の風景を見せてくれるのだそうです。
「無農薬、無肥料で育った土や植物は自然のままの活気に満ち溢れ、 そこに立っているだけで、元気をもらえるんです。それが訪れた人に喜んでいただける理由かもしれません」と隈本さんは言います。

私たちにできる「未来の幸せと健康を守ること」
例えば、化学肥料などを土に施すと、何代にもわたって影響を及ぼすことが考えられます。
「長い目で見ると、今たまたまこの土地を私たちが使わせてもらっているだけなので、何代も先に渡っても恥ずかしくないよう、土地もお行儀よく正しく健康に扱うことが大事。
それが私たちにできる未来の幸せと健康を守ることよ、と母がよく言っていました。

自然を愛する者として、その教えを胸に、次の世代へ責任をもって自然の恵みを受け渡すことを皆で心がけています」と語ってくれました。
この方にお話を伺いました
紫竹ガーデン専務
隈本和葉(くまもと かずよ)さん