クロモジの木を育てる


石川県鳳珠郡能登町(旧柳田村)。能登半島の中心の山間にある黒川地区に、クロモジ好きの面々が集まりました。(一社)和ハーブ協会さんは日本のハーブの研究と普及を目的に活動を重ねてきた団体です。その会員の方や、ご興味のある一般の方々を対象に、クロモジ植樹&精油蒸留体験会が開催されました。
植樹するのはスキー場の跡地。鬱蒼と茂っていた木々を切り開き、ようやく人が足を踏み入れ、クロモジを植えられるような土地に整備したのは、ノトノカ代表佐野禎宣さん。森林組合を退職後、自伐型林業を行う傍ら、森の資源を活かすために精油の製造販売を始めた方です。
もともとクロモジを活かそうという発想はなかった町ですが、ノトノカブランドは石川県内のアートディレクション力を競う賞を受賞するなどして、製品としての存在感を増していき、佐野さんの存在も注目されるようになりました。
佐野さんは自社で精油を販売するだけでなく、能登の名産として育てるべく、町役場にもクロモジ栽培を提案。今回植樹するこの土地の整備にも町役場の理解と協力を取り付けました。養命酒製造もクロモジが育ちやすい土地であることを見据えて植栽に協力し、苗の提供などをしております。
一見荒地。本当に育つのか?


植樹する所は、意外に石がごろごろ。クロモジは山中の柔らかい土に育つイメージがありましたが、佐野さんによれば、「見た目よりも土地は肥沃で十分に育つだろう」とのこと。確かに、ここから少し森に入れば自生しているクロモジに出会えます。
地元石川の方から、関東、東海、関西、中国地方にお住まいの方まで、13名の皆さんがご参加されました。感染症対策をとりながらの移動は普段より大変だったと思いますが、能登の爽やかな晴天が皆さんをお迎えしました。
佐野さんから教えていただいた植え方のデモンストレーションの後、思い思いに植えていきます。苗のひげ根が最も大切で、これを傷つけないように一本一本分け、穴に入れたら土を被せます。地際よりやや高いくらいまで土を被せられたら、足で土を踏み固めます。これをすることで根と土が密着し、育ちやすくなるとのことです。
間にクロモジの説明をさせていただいたり、野生のあけび(巨大!たくさん!)で休憩したり、自然の中での楽しい時間を皆さんも過ごされました。植えた苗がどのように育っていくか、今後が楽しみです。
精油蒸留の見学から


植樹が終わった後は、お蕎麦屋さんで季節の天ぷらをいただきつつ、ノトノカさんの所へ。クロモジの粉砕を体験したり、チップの重さを予想したり(重いのか軽いのか分からない不思議な感覚でした)、蒸留までの木材の加工を楽しく学ばせていただきました。
いよいよ蒸留施設の扉を開けるとクロモジの香りが溢れ出てきます。チップを水蒸気蒸留し、精油を抽出、分離する様子を拝見させていただきました。蒸留が終わった後のチップは、サシェ(香り袋)としても活用されます。クロモジの植樹から精油になるまでを体験できる貴重な時間となりました。
自分で木を植えると、愛着がわいて、育つのが楽しみになります。「たとえ明日、世界が滅亡しようとも、今日、私はリンゴの木を植える」とはルターの言葉だそうです。『感染列島』という映画で印象深く引用されていたのを思い出しました。コロナ禍の中で、私たちはリンゴに代わりクロモジを植えることができました。クロモジが皆さんの希望の一端となりますことを願っています。