生活

クロモジの香りの有用性と香育

注目される香りの有用性

クロモジ
クロモジの葉
葛和恵奈子
IFA認定アロマセラピスト/AEAJアロマテラピーインストラクター 葛和恵奈子さん

今回は、アロマ界のクロモジ事情に詳しいアロマセラピストの葛和さんにお話しを伺いました。
クロモジが自生する山林は宝の山とも言われ、クロモジの香りの有用性を活かしたさまざまな商品が、各地のクロモジ自生地で開発・発売されるようになりました。クロモジの樹皮や枝葉に強い香りがあるクロモジは、水蒸気蒸留法によって精油が採取され、アロマテラピーに用いられています。

クロモジの芳しい香りを嗅ぐ——この瞬間から私たちの心身では、アロマテラピー(芳香療法)体験が始まります。太古の昔から、人々は香りを通して神とつながり、心身を癒やしてきました。
また、日本でもユズ湯やショウブ湯が親しまれてきたように、季節折々、健康や豊かな暮らしのために香りを活用してきたのです。伝承されてきた香りの力は、近年の研究により五感の中でも脳にいち早く刺激を与え、自律神経系、免疫系、内分泌系に作用し、心身のバランスを整えることが分かっています。

高級香水ローズウッドのようなクロモジの香り

クロモジの香りは高級香水ローズウッドのよう

クロモジの香りを初めて嗅いだ瞬間、心地よさと同時に感じたのは、数々の高級香水に使われてきたローズウッドの香りに似ているということ。木の香りとは少し違う”意外さ”にも高揚しました。アロマテラピーの授業で学生がこの香りをテイスティングする場面では「花みたいないい香り」「高級感があって好き」と評判も上々。続いてクロモジの木を見せると、「この木からこんなに甘い香りがするなんて」と驚きの声が上がります。その後の香水等の実習でもクロモジ精油に柑橘系やハーブ系精油をブレンドして楽しむ学生が多く、若年層に好まれる傾向があるようです。

イギリスに本部がある国際アロマセラピスト連盟(IFA)のカンファレンスでも、クロモジの鎮静作用や抗菌作用、安眠作用などへの期待が発表され、多くのアロマセラピストたちがその香りと共にその働きにも関心を寄せていました。

(公社)日本アロマ環境協会が発表した「アロマ市場に関する調査レポート」によると、日本のアロマ市場規模は3,564憶円(前回調査比107%)。その市場を牽引するのはアロマ化粧品市場(前回調査比112%)で、精油が配合されたボディケア、スキンケア製品は、女性と共に男性のニーズも高まっています。さらに、ライフスタイルの変化により居住空間の充実に価値がおかれる中、生活の様々な場面にアロマ製品が広がっていく兆しも。加えて、日本特有の和精油の人気も定着しているようです。国産クロモジを活用した製品は、ますます注目が集まるのではないかと、期待がやみません。

2018年アロマ市場
【出典】公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)プレスリリース「2018年アロマ市場に関する調査レポート」

イタリアで人気のクロモジ和精油

近年、日本に古くから自生する植物や、生活に馴染みのある植物からつくられる、日本特有の香り「和精油」への注目が集まっています。
国内での精油生産の歴史は古く、戦前また戦後の高度成長期に石鹸や高級化粧品香料としてハッカやラベンダー、クロモジ、ホウショウなどの植物から精油を採取していた時代がありました。その後、合成香料の出現により一旦衰退するも、日本でのアロマテラピーの広まりを機運に生産の復活や近年の新たなる開発・生産が活性化しています。
現在では、クロモジ、ハッカ、ヒノキ、ヒバ、ユズなどの柑橘類、ショウガをはじめ、各地方特有の香りも生まれています。

北海道富良野ラベンダー
北海道富良野ラベンダー
収穫したラベンダーを水蒸気蒸留する装置
収穫したラベンダーを水蒸気蒸留する装置

和精油が注目される理由として、やはり日本人にとって心安らぐ香りだと感じられること、“顔の見える精油”への安心感が挙げられるでしょう。海外でも日本の繊細なものづくりの結晶ともいえるメイドインジャパン精油への信頼性は高く、欧米、アジア圏などへ順調に輸出量を増やしているようです。イタリアでは和精油の中でもクロモジに人気が集まったという記事がAEAJ会報誌(No.76)に掲載されていました。
自然と共存しながら付加価値の高い精油を開発する和精油の取り組みは、国内外に誇るべき文化といえるでしょう。その中でも日本固有の植物であるクロモジ精油は、ますます注目されそうです。

クロモジ精油と芳香蒸留水
「きさらづ里山の会」(千葉県)で販売するクロモジ精油と芳香蒸留水

感性・発想力を育む香育

香育

「香育(こういく)」という言葉をご存じですか?
香育とは、子どもたちに向けた「香りの体験教育」のこと。子どもは大人が想像する以上に香りに敏感です。幼少時は五感などの感覚機能の基礎をつくる時期でもあり、五感のひとつ「嗅覚」においても、自然で豊かな香りに親しんでいると、繊細な感覚や感性の発達につながるといわれています。
私が所属する日本アロマ環境協会では、植物の恵みである「香り体験」を通して、感性や発想力を育むと共に、人と植物の関わりや自然環境の大切さを伝える香育を展開しています。

植物の香りは、植物はもちろん、人間や動物、虫が生きていくために意味ある大切なもの。香育では、植物と人間にとっての「香りの役割」などを学んだ上で、植物それぞれに特有の香りを持つことや、香りの感じ方は人それぞれで異なることなどを体感します。そして、香りに親しむ体験をひとつのきっかけとし、植物の恵みと自分たちの生活の繋がりに気づく、またそこから自然と環境を大切にする姿勢を育てることをねらいとしています。例えば、植物が育つためには光、水、土、空気などの地球のめぐみが不可欠。だから私たちは植物を使うだけでなく、植物が育つ環境を大切にすることや、植物を育てることの大切さを伝ていきます。

香育の題材にぴったりなクロモジ

香育

私も夏休みの自由研究のテーマなどで香育の講座を持つこともありますが、子どもたちは香りを嗅ぐと目をキラキラさせながら、「植物ってすごい力を持っているんだね」「大事にしなきゃね」などと話してくます。ピュアな気づきにこちらが学ばされます。

クロモジは、身近な国産の植物であり、古くから生活に活用されてきた歴史もあり、子ども達にも親しみやすい香り。香育の題材としてピッタリです。「なぜクロモジは見た目とはギャップのある甘く爽やかな香りを発しているのか」「なぜ木なのにラベンダーなどのハーブや柑橘系の精油にも含まれる「リナロール」(フローラル感のある香り成分)が多く含まれているのか」など、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが日本でも広がる中、同協会ではそんなことも子ども達と一緒に考えていきたいと考えています。

※「香育」は(公社)日本アロマ環境協会の登録商標です。

この方にお話を伺いました

株式会社ジャパンライフデザインシステムズ所属
IFA認定アロマセラピスト 東京モード学園非常勤講師 
AEAJアロマテラピーインストラクター
葛和恵奈子さん

編集者として取材で出会った植物の豊かな力に魅せられ、アロマ&ハーブによる健康術&生活術を学ぶ。専門学校講師として、また地域のママ達に生活の知恵となるアロマライフスタイル術を伝えている。