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クロモジサミット2021を開催しました

クロモジ研究会は、初めてのクロモジサミットを「クロモジの日」として認定された9月6日、全国のクロモジ研究会メンバー、メディア関係者、一般参加者の約140名を結び、オンラインで開催しました。

基調講演では熊本大学大学院の渡邊高志先生に、「資源植物の産業利用事例」について、国内外での豊富な経験をもとに、有用植物をいかに産業として盛り上げていくか、を語っていただきました。

クロモジ研究会からは、「森林資源を守る」、「食への広がり」、「機能性のエビデンス」の3つの分科会に分かれ、森の保全とクロモジ資源、クロモジ茶と食への可能性、クロモジ精油の機能性について、発表が行われました。

基調講演 「資源植物の産業利用事例」

熊本大学大学院薬学教育部薬用植物学分野教授 渡邊高志先生
熊本大学大学院薬学教育部薬用植物学分野教授 渡邊高志先生

私は長年、世界各国で森林の土壌保全や資源植物の調査研究をしてきました。現在はクロモジを含めた日本の有用植物に着目し、比較的短い期間で開発できる「機能性食品」や「新観光」の分野に力を注いでいます。植物の力で地域を活性化し、産業化に繋げていきたいと考えています。

養命酒製造がクロモジを活用していなければ、薬用樹木として十分応用されていなかったかもしれません。未開拓な植物にサイエンスの光を当てることで、地域活性化の可能性を広げることを「未利用植物の開拓」と称していますが、日本にはこれらが沢山眠っています。

降圧作用が期待される「ウバユリ」の研究

島根県隠岐諸島知夫里(ちぶり)島では、“血圧を下げる”というテーマで「ウバユリ」という植物に注目、5~6年調査研究をしています。

ドローンで島全体を撮影するなどし、生態系や自生する場所、土壌水分量やミネラルを調査してきました。ウバユリ生育地の土壌水分含有量と採取個体のACE阻害活性を調べると、土壌水分含有量とACE阻害活性には正の相関があることが予想される結果に。

現在、ドローンでクロモジの挙動も調べているところです。クロモジも似た環境の場所に自生すること、生育には土壌の性質や傾斜、光の度合いなどが重要なことが分かりました。

雑木林や木陰に自生するウバユリ
雑木林や木陰に自生するウバユリ

地理情報システムGISを使った事例

四国では、GISという地理情報システムを使って、クロモジの生育の特性、栽培化するための評価を研究してきました。

GISでの特徴は成分との比較連携です。クロモジの場合はクロロゲン酸や1,8シネオール、リナロール等の成分が含まれますが、成分と生育環境、土壌の環境などの連携を今まとめているところです。

GIS地理情報システム
赤い部分はクロモジが生育している場所

植物の力で地域を元気にしたい

高知県土佐山田では、和製ハーブという地域の資源を利用したカフェ「座文」を開設。

クロモジをはじめ、カキドオシ、カワラケツメイ(高知では岸豆)、スイバ、ヨモギなど、高知県産のお茶に絞り提供。この拠点のお陰で、地元との交流、発信が活発になったという経験があります。

カフェ「座文」 
カフェ「座文」 ※熊本に移り現在閉店

長崎県雪浦では、120年続く酢造メーカーがクロモジを漬け込んでクロモジエキスを抽出した玄米酢を商品化。クロモジでお酢独特の香りを爽やかにし、料理や飲用にも使いやすくしました。

この地区にはアレルギーを抑えるような花「島寒菊(しまかんぎく)」やタンポポ、苦菜(にがな)などの有用植物が沢山あり、植物園化構想や漢方の考え方を取り入れたハーブティー作りなどを実施。夏の胃腸ケア・夏バテ対策としてクロモジにローズヒップとジンジャー等をブレンドした「夏爽茶」他、季節の体の状態に合ったハーブティーを地元NPOが商品化しています。

蒲公英:キク科セイヨウタンポポ
蒲公英:キク科セイヨウタンポポ

高知県内では「食のキャラバン」と称し、郷土の植物再発見、食文化観光の開拓、研究成果の社会化を目的に、6地区で講座を開催。活動でのコンテンツは特産品、料理、書籍(植物ガイド)などにアウトプットして集積しています。

室戸市ジオパークでは、女性部が地元の食材で「ジオパーク弁当」を作り、今はそれが発展して「ジオパーク寿司」ができ、食の文化観光の一つになっています。またこの弁当に使った植物は「救荒(きゅうこう)植物」として、熊本の災害時にも役に立っています。

ジオパーク弁当
ジオパーク弁当

熊本県山都町では有用植物の研究を始めて、地域の植物を使った料理作りを女性部とコラボしています。また熊本大学の大学院生が同地区の植物から胃癌に特化した植物を発見し、エビデンスを見出しています。

「森林資源を守る」分科会からの発表

“森林の保全とクロモジ資源”について島根県海士町役場宮原颯さんがメインスピーカーとして発表。 現状、輸入材の流入や後継者不足で放置される森林が増えていることを挙げ、人の手が入ることで森は生きることを示唆。「人の手を入れ森の価値が高まると、森林サイクルが回り出す。特にクロモジは森林資源としてお茶や精油などの商品開発ができるため、森林保全に繋がりやすい。環境に負荷をかけない伐採をし、クロモジを核にした持続可能な森林づくりを行っていきたい」と想いを伝えました。
クロモジは成長が比較的早く5~6年のサイクルで活用できること、適度な日当たりが生育環境として良いことから、森とクロモジは補完し合う関係にある、とまとめられました。

持続可能な森とクロモジのサイクル
持続可能な森とクロモジのサイクル 森林×SDGs:林野庁参照

【分科会メンバーとコメント】 ※順不同

■いいじま森の会(長野)福田富穂さん
南信州の飯島町で、自然環境を守り、里山、森林資源を保全・再生。クロモジを町の財産として生かすために、お茶や精油の商品化、地域イベントでのワークショップなどを開催しています。
■めぐみ(鳥取)濱田美絵さん
鳥取県西部の日本百名山、大山山麓で、豊かな自然資源を生かしたウェルネス事業やクロモジなどのセルフケア商品の開発を行っています。森林に関する学び、森林資源の活用と保全、地域振興などに取り組んでいます。
■きさらづ里山の会(千葉)柴崎則雄さん
クロモジ楊枝の産地である上総地区で里山の整備保全活動をする中でクロモジと出会いました。千葉大学園芸学部准教授の高橋輝昌先生のご協力を得て生育特性に関する研究を実施。楊枝の伝統技能を守る活動も行っています。
■宮川森林組合(三重)杉浦明伸さん
森の資源の活用として、商品製造に有用なクロモジなどの広葉樹に着目。サカキL&Eワイズと共同で、香りを生かしたアロマオイルなどを製造する「Odai」をブランド化。森林再生を促す採取、植栽を日々検討し、実践しています。
■隠岐郡海士町(島根)宮原颯さん
離島である海士町では、森の栄養が海に流れ、海産物を豊かにするという考えのもと、森林保全を推進。古くから飲まれるクロモジ茶を「福来(ふくぎ)茶」として商品化。グルメ漫画にも紹介され、島の名産品になっています。

「食への広がり」分科会からの発表

和ハーブ協会副理事長平川美鶴さんがファシリテーターとなり、クロモジ茶と食への可能性について探りました。まず互いのお茶を試飲し、特徴を学び合うことにしました。一口に“クロモジ茶”といっても、地域による品種の違い、使用部位、加工方法によって色も味わいも香りもそれぞれであることを発表。「クロモジ茶は、大量生産されていないからこそ、地元にある素材の個性と向き合ったもの作りができる」とし、クロモジ茶や食への商品化をする各分科会メンバーから特徴、楽しみ方をシェアしました。

クロモジとクロモジ茶
分科会メンバーが製造販売するクロモジ茶

【分科会メンバーとコメント】 ※順不同

■UNE(新潟)納谷光太郎さん
オオバクロモジの枝と葉には個性があり、2種類のお茶を生にこだわり商品化。枝、葉のそれぞれの風味を楽しんでいただきたいです。
■いいじま森の会(長野)伊藤秀一さん
葉を主に焙煎しているのが特徴。暑い時期には冷蔵庫で冷やすとスッキリし、水出しするとまろやかで癖のない味わいになります。
■山の恵みの研究所(鳥取)岩崎智恵さん
香りが立ちやすいよう、枝と葉を細かくしているのが特徴。蒸らすと美味しくいただけます。他のお茶などとブレンドを楽しむのもおすすめ。
■めぐみ(鳥取)濱田美絵さん
枝を中心に焙煎。1袋で3種の飲み方を提案し、水出しでハーブ水⇒急須で蒸らす⇒最後は煮出すと味、色、香りの変化を楽しめるという付加価値をつけました。
■ユーエムディー(島根)大谷修司さん
出雲で飲まれてきたクロモジ枝茶を商品化しました。深い香りと後味広がるドップラー効果が魅力。料理に合うので料理人にも活用いただきたいです。
■乃し梅本舗佐藤屋(山形)さん
「クロモジは柑橘のように抜ける香りで、渋さやしびれがないので食に展開しやすい。お茶やお酒との相性がいい。知る人ぞ知る存在になっている」と言います。クロモジ羊羹、クロモジのジェノベーゼ、兵庫の有名ショコラ、海士町のホテルのコース料理など、プロの活用例を紹介。

クロモジ羊羹
クロモジ羊羹
クロモジのジェノベーゼ
クロモジのジェノベーゼ

「機能性のエビデンス」分科会からの発表

桜サイエンスビューティー代表取締役川人紫さんがメンバーを代表してクロモジの機能性について発表。クロモジは地域、品種、採取時期によって構成成分や含有量が異なるため、全国各地のクロモジ成分の分析データを集め比較。クロモジが多い北関東以北では主な成分はリナロールだが、他の成分構成はバラバラという結果に。

またクロモジに関する論文を取り纏め、リラックス、安眠、ストレス減、白血病細胞の死滅(試験管内の試験)、歯周病菌の抗菌活性などの研究が多かったことを発表、養命酒製造のクロモジエキスの機能性研究についても紹介しました。

【地域や品種による違い】
■岩手/1,8シネオールが他より多い。■滋賀/リナロール主体。■島根/リモネンが多い。■愛媛/ケクロモジのため成分構成が異なり、1,8シネオールが主成分。

クロモジ成分(岩手県)
クロモジ成分(愛媛県)

【成分の特徴】
■リナロール/リラックス、抗不安、抗菌作用。ラベンダーにも含まれ、揮発性があり、華やかな香りが特徴。
■1,8シネオール/鎮痛、鎮静、鎮咳去痰作用。ユーカリにも多く含まれる成分。清潔感あるシャキッとした香り。
■ゲラニオール/抗菌、抗炎症作用などが挙げられる。バラの香りを構成する成分。

「クロモジなど有用植物は、今後益々重要な役割を持つ。ヘルスケア活用に向けた研究を更に進めていくと共に、多くの人に優れた機能性を知っていただきたい」と、発表に願いを込めました。

【分科会メンバー】  ※順不同

■東里工業(岩手)■UNE(新潟)■桜サイエンスビューティー(東京)■依佐美(愛知)■サカキL&Eワイズ(三重)■山の恵みの研究所(鳥取)